プールサイドラバー なつやすみ特集号

 

 

 

各駅停車でねむりから目がさめて僕たちの夏がくる。

 

(2018/7/1)

 

 

地下鉄は蒸されている

硝子戸の向こうで蝉がのたうちまわっている

午前1時この街で一番正気なのは私だ。

 

(2018/7/18)

 

 

 

『なつのはなし』

 

 

教室の冷房で体調崩すので授業に出たくない。大学に体を壊しに行ってるようなものだ。

 


最初の方に仲良かった学科の子が来なくなった。去年もそうだったが、今年は本当に見ていない。彼はきっと卒業できないのだろう、もしかしたらやめてしまったのかもしれない。彼とはフリッパーズギターの話をした。シューゲイザーが一番好きなんだと言っていた。バンドをやっているとも言っていた。思えば彼のマスクの下の顔を覚えていない。大学。

 


外は暑い。冷えた体を温めるのに時間はかからなかった。35度、文京区。

夏っぽい、新しい髪型にしてみた。いつ見せようかな、何て言うのかな。

 


高校の時にきみに会っていたらどうなっていたんだろうと考える。特にこの季節。

同じクラスだったら、同じ部活だったら、同じ駅までの帰り道だったら…

高校の頃の私はきっと、高校の頃のきみに会っても、同じものを感じるんだと思う。言葉を交わさずとも。でも、その時の私は今よりも素直じゃないし 話せないから、距離を置いてしまうのかもしれない。目があってもきっとそらしてしまうだろう。もしかしたら大学でだって、そうだったのかもしれない。だれかほかの人がいて初めて気づいたことや動いたものがあるのだ。今の私だから起きたことがたくさんある。いつ出会うのかというのは、少し大事な気がしてきた。今となっては考える必要もないのかもしれないけれど。あ、でも、もし放課後に教室で二人残ったら、きっとたくさん話したかもしれないな。そんな想像をしながら花火大会を指折り待つ、テストとレポートを端に置いて

 


午後3時、駅員の声で目覚める各駅停車。夏。

 

 

(2018/7/20)

 

 

 

 

性別問わず眼鏡が好きだ。目の前の少女が眼鏡をとって額と頬の汗を拭う。人と話して分かったことだが、ギャップだとかそういう域の話ではない。眼鏡、歯列矯正…人肌や肉につく無機質なガラスや銀、スチール、プラスティックが好きなのかもしれない。他にも電車、駅、工場、鉄骨、橋、電柱、導線などの建築構造に色気を感じる。

昔、母の職場の人の息子が新人の映像作家かなんかで、その人が描いたポスターをもらったことがある。その絵は上から見た街の図だった。そこに果てしない色気を感じたのを覚えている。もちろん顔も知らない相手からもらったという事実もときめいたのだが、何よりその作品だ、それは今の私をまだどきどきさせることができる。アート。何だそれは。澄ました顔して、かっこつけやがって。解釈の暴走でいくらでも金儲けできそうだな。でもそうじゃない何かがそこには絶対にあるから、それが分かるから、私はそれを一生追う。

社会的生活を覚えてもなおこびりつく幼少期からの業。今の私、ダサすぎる。だって何もしてないもん。嫌だな、なんか作ってよ。全然死ねない。死にたいかと言われたら死にたくない。比喩ですか?そうですとも言いたくない。きっと裸になるより難しい、奥底の思い、その表現。社会的に?経済的に?そんなんどうでもいいが過ぎる、やりたいからやるんだろ何でも。この自由があるから生きる意味なんだろ。で、意味の行使はどうした、嫌悪感と親しみを同時に感じる。芸術ってなんなんだよ。答えろ。いや、答えなくていい。答えられてしまったらそれは死んでるも同然か。知らねえ。でも生き物なのは確かで

絶対誰も入れない部屋で黙々と黙々と抑圧された性癖から生まれる最高潮の感情を抽出して瓶に詰めたのを少し整えて外に出てどうですか?と訊く作業。ごっこもそろそろ白々しい。文脈を覚えてみることからはじめるといいらしい。中学から作ってきたやつ、全部どっか行ったのかな。ノートに閉じ込めたまま、窒息したのかな。殺したつもりは無いのに見ないふりしてたら全部死んでましたとか言える?あの景色たちだけが息をしている。こんなはずじゃないと書くのはもう終わりにしたい、誰も見ていないような誰かに見てほしいような世界、何も正しくないし何も間違ってないのに息を潜め続ける理由は無いのかもしれない。

 

(2018/7/23)

 

 

 

知らない青年と肩を並べて眠る夜、電車は昨日を置いて加速する

振り切った前髪 前が見えるように、君の神様と僕の最終日

終電鳴り響く誰も知らない歌に身を委ねて

終点降り歌う誰も知らない昨日のやつ

たまの無気力と無感情 誰も悪くないし事実は変わらない 湿った空気吸いこんだら三日月がこっちを見ていた、君の好きな

帰り道 自由と引き変えた無で何が刺せると言うんだろう

容易く言葉になる日々 そんなんじゃなくてもっと 傷つき傷つけながら思いあうこと許しあうこと、切った指の傷たしかめる

揺さぶられた炭酸水撒き散らして告げる夏の始まり、空になってボトル越し僕の街

 

 

(2018/6/20 スプラッターブルー)